仮入部作戦
著者:高良あくあ


 と、いうわけで。


 次の日、盛岡さんは瀬野さんを、俺は陸斗を科学研究部の部室に連れて来ていた。

 まぁ、流石に出会ったばかりでいきなり告白させるわけにもいかないだろう。そこで……


「……おい、悠真」

「何だ?」

 陸斗が隣で不機嫌そうに俺の名前を呼ぶので、仕方なく返事をする。

「説明しろ」

「何を?」

「どうして俺は、放課後、いきなりお前に『科学研究部』の部室に連行されなきゃいけないんだ?」

「気にするな、部長の気まぐれだ」

「納得いかねぇぇえ!」

 陸斗が叫ぶ。


 向かいを見ると、森岡さんが瀬野さんに昨日のことと、『作戦』を話していた。


 と言うか、ちょうど話し終わったようだ。


 部長が咳払いをする。

「さて……じゃ、とりあえず自己紹介でもしてもらおうかしら。あ、私のことは知っているわね。科学研究部部長、高等部二年四組の躑躅森夏音よ」

「いや、部長のことを知らない人間なんてそれほどいないと思いますけど……」

 色々とやらかしているし。

 部長が俺を睨む。

「何、悠真?」

「いえ、何でもありません」

「ふーん……じゃ、まず悠真から自己紹介」

「分かりましたよ……科学研究部唯一の部員、一年三組の泉悠真です」

「唯一はいらないわよ。……じゃあ次、森岡さん」

「はい。一年一組、森岡紗綾です。部活は特にやっていません」

「よろしい。次、そこの少年」

 部長が陸斗を指差す。

「自己紹介しなさい」

「……陸上部所属、一年三組、羽崎陸斗です」

「良く出来ました。偉い偉い」

「俺だけ子供扱いっ!?」

 陸斗が叫んでいたが、そこは全員無視する。

「じゃあ最後」

「あ、はい」

 部長の言葉に、瀬野さんが反応する。

「吹奏楽部所属、紗綾と同じ一年一組の瀬野秋波です」

「よし。じゃあ――」

「あのー」

 部長の言葉を遮り、陸斗が手を挙げる。

「何よ?」

「俺達、何でここに呼ばれたんですか?」

「陸斗に聞いたでしょう、私の気まぐれよ」

 悪びれた様子も無く言い放つ部長。それでも引き下がらない陸斗。

「俺達に何をしろと……」

「……科学研究部に仮入部?」

「入部する気は皆無なのにですかっ!」

「じゃ、そういうわけで、とりあえず二人一組で実験でもしていなさい。悠真と森岡さん、羽崎と瀬野さんね」

「呼び捨てにされたっ!」

 陸斗が叫ぶが、部長は当然のように無視する。ああ、陸斗が哀れになってきた。

「悠真達はそのテーブル、瀬野さん達はそっちを使って。私は向こうで別な実験をしているから」

 そう言って、部室の奥の方のテーブルへと歩いていく部長。

 陸斗が嘆息し、瀬野さんに声をかける。

「じゃ、仕方ないから始めようか? えっと……」

「あ、秋波で良いよ、羽崎君」

「え、あー……じゃあ、俺の事も呼び捨てで良いぞ。秋波」

 瀬野さんの顔が明るくなる。

 あれ、何かこの二人、一気に仲良くなっていないか。お互い呼び捨てとは……陸斗めっ。ちょっと嫉妬。


 俺は森岡さんの方を振り向く。

「じゃあ、俺達も始めようか。……森岡さん?」

 返事が無いので、もう一度呼びかけてみる。

「あ……はい、すみませんっ!」

「別に良いけど……どうかしたの?」

「いえ、あの……少し、羨ましくて……」

「羨ましい? 陸斗と瀬野さんが?」

「え、あ、あの、い、いえっ! 何でもありませんっ! そ、それより早く始めましょう、泉君っ!」

「あ……まぁ、良いか」

 正直謎だらけだけど、考えても分かりっこないし、な。



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